オランウータンの野生復帰が始まります!
4頭のオランウータンがクジェ・セウェンの森へ
オランウータンの野生復帰の背景には、一頭一頭が歩んできた長く困難な道のりがあります。
今回、野生の森へ還るのはマーロン、エイムズ、デニス、キャサリン。
この4頭もまた、それぞれに過去の傷を抱えながら、懸命にリハビリを重ねてきました。
母とは正反対の性格に育ったマーロン
2015年11月13日、サンボジャ・レスタリの保護施設で生まれたマーロン。母メリンと父ジーノの間に生まれた、保護施設生まれのオランウータンです。
通常、赤ちゃんのオランウータンは母親の行動を真似しながら生きる術を学びます。しかし、マーロンの歩みは少し特別でした。彼の気質は、母メリンとはまったく正反対だったからです。
母のメリンは、かつてレジャー施設で行われていたサーカスショーに出演させられていたオランウータンでした。
そうした背景から人にとても懐いており、甘えるのが当たり前になっていました。しかしマーロンは、赤ちゃんの頃からとても警戒心が強く、飼育スタッフが近づくことすら苦手。
不快や警戒を示す特有の鳴き声(キス・スクイーク)をあげて、人間との距離を保とうとしました。
母子の関係に転機が訪れたのは2021年。スタッフがこの親子と、もう1頭のオランウータン、コプラルをサンクチュアリアイランドへ移動させたときのことです。
島では、コプラルがまるで本当の弟のようにマーロンの面倒を見始めました。一方で、母メリンは次第にマーロンへの関心を失い、距離を置くようになっていきます。
その後、ケージへ移されるとメリンはマーロンの世話をしなくなってしまったため、2022年3月、スタッフはマーロンをジャングルスクールのレベル1へ進ませることにしました。
ジャングルスクールに入ると、マーロンの自立心はさらに引き出されていきます。
夕方、温かいミルクを用意して呼んでも、寝床のケージに戻るのを嫌がるほど、森の暮らしに夢中になりました。
人との関わりを好まないマーロンの性格を尊重し、2024年12月22日、野生復帰の最終ステップであるプレリリース島へとステップアップしました。
この島で、マーロンの中に眠っていた野生の本能が一気に開花します。地面に降りることはめったになく、一日の大半を高い木の上で過ごすようになりました。仲間のキャサリンと一緒に森を探検しながら、自然の食べ物を探し出すスキルもぐんぐんと上達し、立派に成長を遂げました。
森林火災を乗り越え、生きる力を取り戻したエイムズ
エイムズは、まだ1〜2歳ほどの幼い赤ん坊だった2016年9月24日、東カリマンタン州サンガッタの民家から救出されました。BOS財団とクタイ国立公園局による合同レスキューでした。
エイムズが保護されるきっかけとなったのは、2015年に起きた大規模な森林火災です。
炎に包まれる木の上でパニックに陥った母親と離ればなれになってしまい、近隣の住民たちが赤ちゃんを母親のもとへ戻そうと何度も試みたものの、母オランウータンは警戒から我が子を受け入れることができず、最終的に住民の家に連れてこられました。
しかし、一般の家庭ではオランウータン本来の環境を整えることは難しく、赤ちゃんには適さない食べ物が与えられていました。
サンボジャ・レスタリにやってきた当初のエイムズは、おとなしく手のかからない赤ちゃんでしたが、いつも温もりとミルクを求めていました。
その後、ジャングルスクールのレベル1に進むと、エイムズはとても飲み込みの早いオランウータンへと成長していきます。
時に甘えん坊な顔を見せることもありましたが、森で生きるためのスキルを着実に身につけていきました。
プレリリース島に移ってからの成長には、目を見張るものがありました。
最初は新しい環境に馴染めず、地面の上で一人で過ごすことが多かったエイムズ。しかし、少しずつ野生のスイッチが入っていきます。自ら積極的に木登りを始め、木の枝を器用に編み込んで自分だけの巣を作る技術もマスター。自然の木の実や葉を探す力も見事なものでした。
幼い頃に深い心の傷を負っても、彼の中に宿る生き抜く力が消えることはありませんでした。
野生動物をペットにしてはならないという教訓
デニスとキャサリンの経験は、野生動物を人の手元で飼育することがどれほど難しく、動物たちにとって負担になるかを物語っています。
オランウータンの赤ちゃんは愛らしく、その姿に心を奪われる人は少なくありません。しかし、どれほど可愛らしく見えても彼らは野生動物です。家庭で人が飼育することは、動物たちの心身の健康や命に計り知れない影響を与えてしまいます。
(※オランウータンをペットとして飼うことはワシントン条約で禁止されています。)
デニスは、2〜3歳だった2018年9月14日に保護されました。農園で母親とはぐれていたところを住民に保護され、ジョニと名付けられて民家の中で過ごしていました。
3週間もの間、水とバナナだけで過ごしていたのです。BOS財団の医療チームとベビーシッターが迎えに行ったとき、デニスはシッターの胸に固くしがみついて離れませんでした。幼い体で経験した、大きな不安の表れでした。
一方のキャサリンは、2019年6月29日、4歳のときに民家から保護されてサンボジャ・レスタリへやってきました。アユと呼ばれていた彼女は、狭いケージの中で果物などを食べる機会もなく、白米だけを与えられて暮らしていました。本来と違う生活環境によるストレスから、近づく人を警戒して噛みつこうとするほど神経質になり、全身の毛も薄く抜けてしまっていました。
さらにキャサリンを苦しめたのが、喉の奥にある袋が炎症を起こす重い呼吸器疾患・喉嚢炎(こうのうえん)でした。
施設で集中治療を受け、2023年9月に喉の洗浄処置を終えるまで、長い治療生活を乗り越えなければなりませんでした。
しかし、BOS財団のスタッフによる愛情深く根気強いリハビリが、不安を抱えていた2頭の心を少しずつ解きほぐしていきました。
プレリリース島でのデニスは、仲間の中で誰よりも器用に木の実や新芽を見つけ出すのが上手になり、丈夫な巣をあっという間に作り上げるまでになりました。
キャサリンの回復力も、目を見張るものがありました。病気の再発がないと診断されてからの3年間、彼女は高い木の上に見事な巣を作り、自然の食べ物をしっかりと食べ、たくましく成長しました。
マーロン、エイムズ、デニス、キャサリン。
4頭が過ごしてきた日々は、過酷な境遇から保護され、再び野生の森へと還っていくプロセスがいかに長い道のりかを物語っています。
人間社会での生活によって一度は失われかけた野生の感覚。それでも、困難な過去を乗り越えた彼らは、本来持っている野生の本能を力強く取り戻しました。
プレリリース島での最終モニタリングでも、4頭すべてが自然の食べ物を選び分ける力・安全な巣を作る力・仲間と適切な関係を築く力という重要な基準をしっかりとクリアしました。
そして今、彼らは長いリハビリの期間を終え、野生復帰の時を迎えました。
これから4頭が暮らす場所は、東カリマンタン州にある広大なクジェ・セウェンの森です。
投稿日:2026年11月4日
執筆:BOS財団本部 コミュニケーションチーム(西ジャワ州ボゴール)
編集・翻訳:Borneo Orangutan Survival Japan(BOSジャパン)




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