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オランウータン野生復帰の裏側

  • 7月15日
  • 読了時間: 5分

BOS財団が取り組んでいる、オランウータンたちの野生復帰(リリース)。

SNSなどで、ケージから元気よく森へ飛び出していくオランウータンの動画を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。 一見すると感動的でスムーズに見える野生復帰ですが、その裏側には、言葉だけでは語り尽くせないドラマと、数々の知られざる挑戦が隠されています。

今回は、なかなか見ることのできない、オランウータン野生復帰のリアルな舞台裏をお届けします。


緊張とハプニングの連続。過酷な陸路の旅

オランウータンを森へ帰す道のりは、実は出発前からすでに始まっています。


命を守るための厳重な健康診断

まずは、入念な健康診断を行います。 もし万が一、感染症に気づかないまま森へ送り出してしまったら、すでに野生で暮らしているオランウータンたちの間で感染が広がり、最悪の事態を招きかねません。だからこそ、このプロセスは絶対に妥協できません。


なぜ、移動は深夜なのか?

無事に健康が確認されると、いよいよ出発です。 移動は決まって夜間に行われます。オランウータンは暗くなると比較的おとなしくなり、移動によるストレスを受けにくくなるという習性があるためです。

道中は、たとえ真夜中であっても2時間おきに車を停車させます。 これは人間が休むためではなく、オランウータンたちが安全に、リラックスして過ごせているかを確認するため。常に緊張感の漂う夜道が続きます。


暗闇の森での予期せぬトラブル

どれほど万全を期していても、大自然を相手にする道のりは一筋縄ではいきません。

ある時のこと、チームは目的地から40キロほど離れた深い森の中で道に迷ってしまいました。周囲に電波はなく、ネットを使ってルートを探すこともできません。 なんとか元のルートへ引き返そうとした矢先、さらなる試練が襲いました。今度は輸送車の1台がパンクしてしまったのです。

一刻も早く送り届けたい焦りの中、さらなる時間を失うことに。まさに時間との戦いとなり、その日の野生復帰は、当初の計画よりも大幅に遅れて実施せざるを得なくなりました。


突然の遭遇!森の支配者「アルファ」との対峙

様々なトラブルを乗り越え、ボートに揺られて、ついに目的地の森へ到着します。 長旅で疲れたオランウータンたちのストレスを最小限に抑えるため、チームはテキパキとケージを開ける準備を進めます。

セメルとファリダの2頭を無事に森へ送り出し、続く3頭のケージを開けようとした、その時でした。


森の奥から、地鳴りのような咆哮が響き渡りました。

現れたのは、かつて別の場所にリリースされたはずの野生のオス(アルファ)フランキーです。

顔の横にあるフランジと呼ばれる大きなヒダと立派な体躯を持つ彼は、自らの存在をアピールするように、木を揺らしながら姿を現しました。本来は遠く離れた場所でリリースされたはずの彼でしたが、いつの間にかこの最新のリリース場所まで行動範囲を広げていたのです。


現場に走る、一瞬の緊張

チームはオランウータンたちの安全を最優先にするため、標準的な手順に従い、全員でゆっくりと後退。彼らを刺激しないよう、静かに十分なスペースを保ちました。


するとフランキーは、さっき空になったばかりの輸送用ケージに引き寄せられるように近づき始めました。 おそらく彼にとって、そのケージはかつて自分自身が自由を手にしたときの馴染み深い記憶と結びついていたのでしょう。このような瞬間は極めて稀であり、スタッフ一同、息をのんで見守りました。

しかし、フランキーという強力なオランウータンがこのエリアにいる以上、これから放すオランウータンたちの安全は保障できません。チームは即座に、残る3頭のリリース場所を、より安全な別の場所へと変更する決断を下しました。



なぜ「場所を決めること」に何ヶ月もかかるのか?

フランキーとの遭遇からもわかるように、野生復帰の場所選びは、プロセス全体の中でも最も複雑な段階の一つです。 ただ緑が豊かだからここにしようと適当に決めることは絶対にできません。

リリース先として選ばれるには、以下のような非常に厳しい条件をクリアする必要があります。


  • 環境:高すぎず低すぎない、適切な標高か?


  • 食料:天然の果物や木の実が、年間を通して十分に実るか?


  • 安全:将来的に開発や伐採が行われる計画がないか?


  • オランウータン人口:すでに先住している野生のオランウータンが多くないか?


  • 人間の存在:人間の住むエリアからしっかりと離れているか?


さらに、その場所の食物の供給量を調べるため、調査チームが事前に森に入り、樹木の種類や量を学名レベルにまで落とし込んでマッピングするフェノロジー(植物季節学)調査まで行います。


DNAが合わなければ、計画は白紙に

そして、もう一つの厳格な壁が遺伝子のルーツ(亜種)です。 オランウータンは、例えば東カリマンタン出身の子は東カリマンタンの森にしか帰せないという、血統レベルの非常に厳しいルールがあります。 中には、ある地域で育ちリハビリを受けてきた個体が、いざ出発という段階のDNA検査によって、実は全く異なる地域の亜種であることが判明し、計画をすべてゼロからやり直さなければならなくなるケースさえあります。


ケージの扉を開けたら終わりではない

どれだけ準備を重ねても、現場の状況は刻一刻と変化します。 だからこそ、ケージの扉を開けて、無事森に還った..では終われません。


野生に帰った後も、ポスト・リリース・モニタリング(PRM)チームが無線追跡やGPS、コンパスを駆使して、彼らの行動をずっと追跡し続けます。


  • ちゃんと新しい環境に適応できているか?


  • 自力で食べ物を見つけられているか?


  • 他のオランウータンや人間と衝突せず暮らせているか?

彼らが森の新しい生活にしっかり馴染むのを見届けるまで、リリースは終わりません。扉が開いた瞬間は、オランウータンにとって最も重要な新しい始まりなのです。



最後に:すべては「ただいま」のために

オランウータン野生復帰の裏側には、一言では言い表せないほどのハプニング、緻密な計画、そしてスタッフたちの熱い情熱と深い献身があります。

すべては、傷つき保護されたオランウータンたちが、本来の家に帰るため。

これからも彼らの未来を守る挑戦は続きます。ぜひ、私たちの活動を温かく見守り、応援していただけると嬉しいです。

 
 
 

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