クジェ・セウェン森林へ 6頭のオランウータンをリリース - 第27回野生復帰プロジェクト-
- BOS Japan

- 5月2日
- 読了時間: 5分
更新日:7月31日
2025年4月23日は、インドネシアのオランウータン保護活動にとって、歴史的な一歩となる日でした。
インドネシア共和国林業省、東カリマンタン天然資源保護庁(BKSDA)、そしてボルネオ・オランウータン・サバイバル(BOS)財団は、リアウ・アンダラン・パルプ・アンド・ペーパー(RAPP)の支援のもと、サンボジャ・レスタリ・リハビリテーションセンターでケアされてきた6頭のオランウータンたちを、東カリマンタン州東クタイ県に位置するPT レスタラシ・ハビタット・オランウータン・インドネシア(PT RHOI)の活動地、クジェ・セウェン森林へと無事にリリースすることに成功しました。
この取り組みは、単なる動物の移転ではなく、絶滅の危機に瀕する大切な種が本来の生息地である豊かな森で再び力強く生き抜いていくことを目的とし、困難を乗り越え、希望を繋ぎ、献身的な努力が結実した「希望の旅」でした。
サンボジャ・レスタリから野生復帰
リリースの準備は、オランウータンたちの健康状態を細かく確認することから始まりました。経験豊富な獣医チームが6頭を丁寧に鎮静し、熟練の技術者たちが一頭ずつ、安全に配慮しながら輸送ケージへと移していきます。
長く困難な移動を考慮し、すべての準備は細心の注意を払って行われました。これは、国際的な動物福祉の原則に則り、オランウータンたちの健康を守るとともに、リリースに関わるすべてのスタッフの安全を確保するために、最も重要なプロセスです。
2025年4月22日午後、インドネシア共和国林業大臣のラジャ・ジュリ・アントニ氏が、リリースチームの出発を力強く激励してくださいました。そして、6頭のオランウータンを乗せた車両は、目的地のクジェ・セウェン森林へと出発。
道中、チームは2時間ごとに停車し、オランウータンたちの様子を丁寧に観察しながら、新鮮な果物や水を与え、移動中のストレスを最小限に抑えるよう努めました。約12時間の陸路を経て、チームは翌23日午前2時25分頃、ムアラ・ワハウに無事到着。
短い休憩と最終ブリーフィングの後、一行は川の船着き場へと向かい、そこでケロトック(屋根付きの小型モーターボート)に乗り換え、クジェ・セウェン森林内のリリース地点へと向かいました。渡河前には、万が一の事態に備え、すべての輸送ケージに浮遊装置がしっかりと取り付けられました。幸いなことに、渡河時間はわずか5分ほどで済みました。
自由への扉が開く - リリースの瞬間
深い森の中で、ついに待ちに待った瞬間が訪れました。チームは、静かに、しかし確実に、輸送ケージの扉を一つずつ開けていきます。最初に姿を現したのは、Moriでした。Moriは、待ちきれないといった様子で勢いよくケージから飛び出し、新しい自由を全身で喜んでいるようでした。続いて現れBugisは、ケージから出ると、初めて見る森の景色に目を奪われているようでした。そして間もなく、MoriとBugisが自然な行動である交尾をする様子が確認され、新しい環境に順応している明るい兆候が見られました。
実はMoriは、2019年にも一度クジェ・セウェン森林にリリースされています。しかし、土壌細菌による感染症である類鼻疽(メリオイドシス)を発症し、健康状態が悪化したため、治療のためにサンボジャ・レスタリリハビリテーションセンターに戻っていました。献身的な治療により完全に回復した今、Moriは再び、本来の故郷である野生の森へと戻ってきたのです。
次にリリースされたのは、Mikhaylaでした。彼女のケージの扉を開けたのは、林業大臣ご自身でした。栄養失調の状態で鉱山地域から救出されたという辛い過去を持つMikhaylaの、力強い回復力は、私たちに深い感動を与えます。サンボジャ・レスタリ・リハビリテーションセンターでの数ヶ月にわたる丁寧なケアとリハビリを経て、彼女は安全で、より自然な環境へと戻る準備が整いました。輸送ケージが開くと、Mikhaylaは力強く森へ飛び出し、迷うことなく近くの木を登っていきました。
次のリリース地点では、SitiとUliがリリースされました。Sitiは勢いよくケージから飛び出しましたが、Uliは落ち着いた様子で、周囲の匂いを嗅ぎ、足元を確かめながらも、自信に満ちた足取りで新しい環境を探索し始めました。
最後に扉が開かれたのは、大きなフランジを持つSie-Sieのケージでした。リリース直後、Sie-Sieは長時間の移動によるストレスからか、やや攻撃的な様子を見せましたが、経験豊富な技術者チームが冷静に対応し、無事に森へと送り出すことができました。
ケージが開いた瞬間、彼らが見せた反応はそれぞれ異なっていました。それは、長いリハビリ期間を経て、それぞれの本来の個性がいきいきと表れたリハビリテーションの成功の証でした。
森の中での振り返り - 評価と未来への希望
その夜、すべてのリリースチームのメンバーがキャンプ・ヌレス・マムセに集まり、今回の活動の徹底的な評価を行いました。出発前の準備から、輸送、そしてリリースに至るまでのすべての段階を詳細に振り返り、今回の活動で遭遇した課題や、今後のリリース活動をより良くするための改善策について、熱心な議論が交わされました。
この詳細な評価は、私たちのすべての保護活動が常に最高水準で行われることを保証するための、非常に重要なプロセスです。それによって、今回リリースされたオランウータンたちが、新しい野生の環境で力強く生き抜いていく可能性を最大限に高めることができるのです。
そして、ここで重要な役割を担うのが、リリース後モニタリング(PRM)チームです。彼らは、リリースされたオランウータンたちが新しい環境にしっかりと馴染み、自立した生活を送ることができるようになるまで、少なくとも1ヶ月間、注意深く観察とサポートを続けます。
今回のリリース活動は、円滑に進んだだけでなく、オランウータンという貴重な種を未来へと繋いでいくためには、懸命な努力、組織的な協力、そして何よりも揺るぎない献身が必要であることを、改めて私たちに強く教えてくれるものでした。
このリリースを通してチームの中に育まれた連帯の精神は、オランウータンとその自然の生息地を守るという、私たちの長期的な使命をこれからも力強く支え続けていくでしょう。
投稿日: 2025年5月2日


























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